ある日のERで・・・

先生!相談です〜〜!軒並み電解質が低いんです.もうどうしていいやら・・・

そんなに慌てなくても大丈夫だよ.まずは病歴聴取からやっていこう.
救急外来で診療を行っていると,複数の電解質異常が合併する状況をよく経験すると思います.高齢者の診療が続いていると摂取不足で説明がつく場合も多いですが,一概にそうというわけではありません.一つのパターンを一緒に学習しましょう.
症例
病歴
70代の女性.3年前に多発圧迫骨折を生じたことをきっかけに多発性骨髄腫と診断された.VRd療法(レナリドミド,ボルテゾミブ,デキサメタゾン)を行って寛解となっており,血液内科に現在も通院していて再発は無いと言われている.1ヶ月前からなんとなく体調が悪くなってきて,食事量も減少してきていた.ここ3日間は身動きもとれないほどに倦怠感が強くなり,救急外来を受診した.
検査所見
| 血液検査 | ||
| Cre | 0.86 | mg/dL |
| eGFR | 54.2 | ml/min/1.73㎡ |
| Na | 135 | mmol/L |
| K | 1.8 | mmol/L |
| Cl | 95 | mmol/L |
| 補正Ca | 7.5 | mg/dL |
| P | 0.9 | mg/dL |
| UA | 1.1 | mg/dL |
| Mg | 2.3 | mg/dL |
| 血糖 | 143 | mg/dL |
| 血液ガス | ||
| pH | 7.423 | |
| PCO2 | 39.2 | Torr |
| HCO3– | 25.2 | mmol/L |
| 尿検査 | ||
| pH | 6.5 | |
| 比重 | 1.009 | |
| 蛋白 | 1+ | |
| 潜血 | 1+ | |
| 糖 | 4+ |
プロブレムリスト
#低カリウム血症
#低カルシウム血症状
#低リン血症
#低尿酸血症
#尿糖

確かに電解質異常を複数合併しているね.どんな鑑別を考えようか.

食事があまり食べられなかったそうなので,摂取不足でしょうか.

摂取不足としては違和感のある所見があるね.
低カリウム血症や低リン血症は摂取不足でも生じ得ますが,低尿酸血症はどうでしょうか.
低尿酸血症の原因の代表的なものは以下の通りです.
- 産生量の減少
- 遺伝性
- アロプリノール,フェブキソスタットの過剰投与
- (重度の)肝障害
- 排泄量の増加
- 家族性腎性低尿酸血症
- 近位尿細管障害による再吸収低下(Fanconi症候群)
- 頭蓋内疾患
- プロベネシドやベンズブロマロンの過剰投与
薬剤は低尿酸血症の最も一般的な原因ですが、尿酸値が2.5 mg/dLを下回ることは稀です(UpToDateより引用).さらに,今回の症例では尿酸降下薬を使用していませんでした.
また,尿糖は認められていますが,高血糖ではなく,SGLT2阻害薬も使用していなかったので,腎性尿糖と考えられました.

一元的に考えると,近位尿細管での再吸収が低下しているのでしょうか

そうかもしれないね.検査を追加しよう.どんな検査を追加する?

尿中の電解質やβ2ミクログロブリン,アミノ酸を調べます!
追加の検査でFEUA 60%,尿細管リン再吸収率(%TRP)32%,尿中β2ミクログロブリン 23854 μg/L,汎アミノ酸尿を認めました.どの所見も,近位尿細管での再吸収障害で説明ができそうです.
診断:Fanconi症候群

理由がわかって一安心です.あとは補正をすれば良いですね.

なぜFanconi症候群になったんだろう?そこを解決しないと,補正を行っても根本解決にならないよ.
電解質異常は補正を行うだけでなく,その根本的な原因へのアプローチが必要です.これによって,補正後の再発を予防できます.
- Fanconi症候群の2次性の原因
- 軽鎖の排泄増加に関連する近位尿細管毒性
- シェーグレン症候群
- 薬剤

血液内科にも確認しましたが,多発性骨髄腫は寛解を維持していて,尿にM蛋白も出ていないみたいです.内服薬にも原因となりそうなものもないし・・・.あ,レジメンの中にゾレドロン酸の注射がありました!

ゾレドロン酸はFanconi症候群を生じる薬剤として有名で,添付文書にも記載されているね.

しかも,明日投与の予定でした!血液内科に連絡して投与中止してもらいます!
診断:ゾレドロン酸によるFanconi症候群
ゾレドロン酸による近位尿細管障害
ゾレドロン酸はビスホスホネート薬の一つで,①悪性腫瘍による高Ca血症,②多発性骨髄腫による骨病変及び固形癌骨転移による骨病変に使用されます.
投与量の約60%程度が骨組織に結合して保持され,残りは未変化体のまま投与後数時間以内に排泄されます.尿細管腔内のゾレドロン酸はエンドサイトーシスにより近位尿細管細胞内に取り込まれ,破骨細胞と同様の機序で尿細管毒性をきたすと推測されています.Anja Verhulst et al; PLoS ONE 10(3): e0121861
ゾレドロン酸投与中にFanconi症候群をきたした報告では,ゾレドロン酸投与から最短で2ヶ月,最長で108ヶ月でFanconi症候群を発症. Naoya Fujita et al; Intern Med 2024; 63: 2027-2033
→ゾレドロン酸の長期使用例でも鑑別から除外できない
基礎研究では腎での組織内半減期は150-200日と報告されている.Pfister T; Toxicology 2004;196:169-170
→回復には時間がかかるかも?
本症例では退院後は内服での補正に移行し,補正が不要となるまでにはおよそ半年かかりました.半減期の問題があり時間がかかったものと思われますが,可逆性が期待できるのでじっくり待つことも重要です.

ゾレドロン酸がFanconi症候群の原因になることは添付文書にも記載されている重要な事項だけれども,腎臓内科以外ではあまり有名ではない印象です.コンサルテーションされる側も,月に1回の注射は見逃しがちなので,狙って情報を集めたいですね.
Take-home message
- 複数の電解質異常は一元的に説明できる原因を探索しよう
- ゾレドロン酸はFanconi症候群の原因になる
- ゾレドロン酸を使用しているということを見つけることが何より大切

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