ある日の医局で・・・

先生,今日はカルテの前で悩んでいるね

最近,何人も連続して低ナトリウム血症の患者さんの担当になったんです.補液をしたりしてなんとなくみんな良くなったのですが,結局原因が分からなかったり,過補正になったりして・・・.鑑別がうまくできていないことが原因かなと思うのですが,フローチャートをみても,あまりプラクティスに反映できない感じなのが腑に落ちなくて・・・.結局低ナトリウム血症の鑑別ってどう考えれば良いのでしょうか?

低ナトリウム血症のフローチャートは病態生理に即して考えると理解しやすいし,治療に応用できるよ.一緒に勉強してみよう.
低ナトリウム血症というと,「尿検査が大事!尿の電解質を見るんだぞ!」,「体液量が大事!エコーを当てよう!」などなど,クリニカルパールは多く伝えられる一方で(救急外来ではコンサルト前に検査は揃えてくれている),研修医,非専門医の方は「そもそも尿検査はなぜ大事なんだろう?」,「体液量はなぜ大事なんだろう?」と思う方も多いのではないかと思います.
こうなる原因の1つが,低ナトリウム血症はなんとなくの治療でなんとなく良くなってしまう,ということによるものと思います.なんとなくよくなるなら,深く鑑別など考えることもなくなっていきますよね?
しかし,鑑別をしっかりしないと患者に不利益をもたらすような危険な低ナトリウム血症もありますし,原因が取り除かれないことで低ナトリウム血症を繰り返してしまうということも多いです.
この記事では,結局これだけ見ておけば最低限大丈夫!(細かいところは専門医に任せよう)という低ナトリウム血症の勘所について説明します.
事前準備:低ナトリウム血症はバソプレシンの分泌異常!
まず重要な事実として,「低ナトリウム血症は自由水の異常!」という文言を理解しましょう.
正常な人の場合,血清のナトリウム濃度は一定に保たれています.濃度が一定ということは,血清のナトリウムの量と水分(自由水)の量の比が一定ということです.つまり,ナトリウム濃度が低下するということは,ナトリウムの量よりも自由水が多い状態になっているということです.
では,なぜ正常な場合には自由水が過剰になることがないのでしょうか?それはバソプレシンの効果です.バソプレシンは自由水を再吸収する役割を持つ抗利尿ホルモンです.バソプレシンは浸透圧の低下に反応して(血清ナトリウムは浸透圧の形成に重要でしたね)分泌を抑制し,自由水を排泄する役割があります.つまり,自由水が過剰になると,バソプレシンの分泌が抑制されて自由水を排泄し,浸透圧を正常に戻します.
以上のことから,低ナトリウム血症は以下の3つの原因に分類できます
低ナトリウム血症の病態生理
① 自由水を排泄する機構に問題はないが,それ以上に外から自由水が入ってきている状態
②本来排泄されてほしい自由水が排泄できていない状態→バソプレシンが本来抑制されていてほしいが抑制されていない状態
③その他
鑑別をするには何を見ればよいですか?

たくさんの参考書にいろいろなフローチャートが載っているけれども,欧州低Na血症診断と治療ガイドラインがわかりやすいよ.

ぜひ教えてください!
様々フローチャートがありますが,欧州のガイドラインがわかりやすいです.このフローチャートのポイントは,尿中のNa濃度をフローチャートの上位に位置づけたことです.
Spasovski G, et al. Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of hyponatraemia. Nephrol Dial Transplant. 2014 Apr;29 Suppl 2:i1-i39. PMID: 24569496.
STEP 1 尿浸透圧 < 100 mOsm/L ? (尿比重 ≤ 1.003 ?)
鑑別のステップの最初は,尿浸透圧を見ることです.尿浸透圧を見ることは重要です.
なぜなら,尿浸透圧によって,自由水排泄が正常に行われているかどうかがわかるからです.
つまり,①バソプレシンは抑制されて自由水は排泄されているが,体外から入る分に追いついていない,②バソプレシンが抑制されていないために自由水排泄がうまくいっていない,を分けることができるます.
尿浸透圧<100mOsm/Lであれば、①バソプレシンは抑制されて自由水は排泄されているが,体外から入る分に追いついていない,という病態であるとわかります.

尿が薄い場合には,体が自由水を排泄しようと頑張っているという認識でよいですか?

その認識でいいよ!

でも,そもそもなぜ体外から入る分に追いつかないという減少が起きるのでしょうか?たくさん尿を出せば良いだけなのでは?

尿量には限界があるんだ.次に説明するね.
尿の浸透圧は50-1200mOsm/Lで調整が可能です。これは逆に,0mOsm/Lの純粋な自由水を尿として排泄できないということです.
ということは、自由水を排泄するには溶質摂取が必須であるということです
一般的に1日に600mOsmの溶質を摂取していると言われているため,この場合最大で12L (600➗50)までしか尿が作れない→それ以上に水を飲むと低ナトリウム血症になります.これを、水中毒と言います.
さらに例えば溶質摂取が少なければ,最大尿量も減り,より少量の水分摂取で低ナトリウム血症になります.この病態をbeer potomania,tea and toast 症候群と言ったりします.
以上のことから,尿浸透圧が低い場合にはバソプレシンは抑制されて自然にNa濃度を上昇させるような方向になっているので,水制限を行うことが治療になります.また,過補正にならないように5%ブドウ糖液などの投与を必要とするのも,このパターンです.

つまり体としては低ナトリウム血症を治す方向に動いているので,過補正になりすぎないように注意を払わなければいけないパターンということだね.
STEP 2 尿中Na < 30 mEq/L ?
尿浸透圧を確認した後には,尿中Na濃度をチェックします.有効循環血漿量が低下した場合,RAA系等の働きによってNaの再吸収が亢進します.そのため,尿中Na濃度が低下した場合には,有効循環血漿量が低下していると推定できます.
バソプレシンは浸透圧に反応して分泌を調整していますが,極端な有効循環血漿量の低下に反応して分泌されることが知られています.これをバソプレシンの生理的な分泌と呼びます.
つまり,脱水症など体液量低下であったり,心不全などで心拍出量が低下したりという状況であれば,有効循環血漿量が低下し,バソプレシンが分泌されます.バソプレシンが分泌されれば,自由水は排泄されないため,低ナトリウム血症の維持要因となります.
尿中Na < 30 mEq/L : 有効循環血漿量が低下してバソプレシンが分泌されていることが低ナトリウム血症の維持要因
尿中Na > 30 mEq/L : 非生理的なバソプレシンの分泌が低Na血症の維持要因

尿浸透圧が高いグループはバソプレシンが分泌されていることが低ナトリウム血症の原因になっていて,それが生理的なものなのか非生理的なものなのかを尿中Na濃度を見て判定しているということですね.
STEP 3 尿中Na < 30 mEq/L → 体液量の推定
尿中Naが低値のグループは有効循環血漿量が低いグループですが,有効循環血漿量が低値となる理由を,体液量から推定します.
まず考えやすいのはhypovolemiaです.体液量自体が少なければ有効循環血漿量も減少します.体液量が少なくなる原因にアクセスできれば,補液などによって低ナトリウム血症の根本的な治療となります.
また,一方で,心不全や,肝硬変,ネフローゼ症候群は,体液量が多くても(胸水や浮腫などがあっても),有効循環血漿量が低下するということが生じます.この場合にも,原疾患を見つけることができれば,その治療を行うことで低ナトリウム血症を改善させることができます.
重要なのは,上記二つの機序の治療が真逆ということです.hypovolemiaは補液が治療となりますが,体液量が多い疾患では利尿等が治療となります.鑑別が重要です.
STEP 4 尿中Na > 30 mEq/ L → SIADHを疑おう

SIADHはよく聞く鑑別ですね.このフローチャートに従うと,SIADHは血清Na濃度が低いにも関わらず,尿が濃くてNaもたくさん排泄されている状態,と言えそうですね.

そうだね.どんな病気も,症候群も,簡単な言葉で言い表せるようになると,応用が効くようになるね.
SIADHだな,と思った場合は,その原因が重要となります.肺癌や脳腫瘍からのバソプレシンの分泌は有名ですが,そのほか疼痛や嘔吐などでもバソプレシンは分泌されます.原因を探していくことが重要です.
また,SIADHと同様のパターンを取るものとして,利尿薬の使用が挙げられます.例えばループ利尿薬はNa排泄を介して心不全等の治療に使われますので,尿中Na濃度が修飾されますので注意してください.
実際には低Na血症の鑑別は他にも多く存在するのですが,一般臨床では上記の理解があれば困ることはないでしょう.
Takehome message
・低ナトリウム血症を見たら,まずは尿浸透圧に注目すること.
・次に尿中Na濃度に注目して,バソプレシンがなぜ分泌されているのかを考えよう.
・鑑別ができれば,その原因についてもアプローチしよう.

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